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若干捏造気味にキャラ把握用習作。孤高新人と孤高リーダーで。
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呼子の音が、丘の上の空に高く跳ねた。反射的に胸を反らして姿勢を正し、田中一は息を詰める。渇き切った喉に一度唾を飲み込む。その号令は寧ろ構えを解いても良いという意味であることは判っていたが、田中は肩幅に開いた足も後ろ手に組んだ姿勢も崩さないまま直立していた。夏の緑の匂いと熱を含んだ風が頬を撫で、帽子の縁からこめかみへと汗が温く伝う。学帽を取って汗を拭いたい気持ちもあったが、動く訳には行かなかった。少なくとも、と田中は傍らの幹部の影が微動だにしないのをちらと確かめて、改めて唇を引き結んだ。
夕日町の丘の頂には、緑を豊かにした大樹が聳えている。その木陰にいる田中の横には、腕組みをした一本木龍太が佇んでいた。裾の長い制服と真紅の襷、そして白手袋で身を固め、肌の露出した部分と言えば田中と同じように首から上くらいしかなかったが、緑を透かす真夏の光を受けながらも彼は顔色一つ変えずにいる。普段通りの峻厳な表情で無言を保つ、凛然としたその姿には、百目鬼のそれとは異なる類の確かな存在感があった。その視線が田中に一瞬注意を向けようとしたのを悟って、田中は慌てて丘の裾へと意識を向けた。
小学生位の年頃の少年が三人、小さな身体には余る大きさの紙袋を抱えて丘を登って来ていた。その内の一人が殊更に不安げな表情を浮かべており、黒髪の別の少年が彼を懸命に励ましている。件の少年は友達の言葉に幾度も頷きながらも、顔を翳らせたままだった。時折紙袋の重さにバランスを崩しそうになりながらよたよたと歩く弱々しい姿に、思わず助けの手を出しそうになる。が、辛うじて田中は堪えた。自分達の手助けの仕方はそういう形のものではないし、何よりも、一本木の横から動くことは出来なかった。
改めて足を肩幅に開き、田中は強く顎を引いた。別に姿勢を崩すなと命じられた訳ではない。寧ろ、彼は何も言わない。それでも構えを解けない、解かないのは田中なりの矜持か、でなければ意地のようなものだったのかも知れない。百目鬼と出会い成り行きと言うよりは勢いで入団を果たしたものの、その岐路の日からは既に幾許かの時間が経過している。未だ新米の域を出ない自身の未熟の自覚は無論あったが、それでもそれなりの場数は踏ませて貰い、多少は修羅場も通って来た筈だという自負も少なからずあった。
だというのに一本木からは、入団の際に百目鬼の指示で演舞の基礎を教わった以降は、特にどうしろとも言われないままここまで来ている。慣れない頃に体育会系のような厳しい上下関係を想像していた田中としては、些か拍子抜けですらあった。元々の躾の良さから自発的に手伝いを行う以外は面倒見の良い斉藤に指示を仰いで動く位で、そんな時でも一本木は後輩に対して特別何かを命じることはなかった。そうして暫くここにいる内に、元から彼は口数が少ない方だというのは流石に田中にも判って来た。街の対岸を拠点にする応援団のリーダーなども一本木を見かける度に絡んで来るようだが、その華やかな容姿に相応しい居丈高な物言いの彼にすら、何を言われてもほんの僅か眉を動かすかどうかという程度だったからだ。
挨拶をすれば無論応えは返るし、無視されているのでは断じて無い。けれど、と出来る限り隣に悟られないように努めながら田中は密かに息を吐いた。幹部としても先輩としても、命令はもとより、手解きもろくろくされたことが無い。先輩ならば後輩の面倒を見るのが当たり前だとも、逆に顎で使って当然と思っている訳でもなかったが、こうまで何も構われないと、放任を通り越し気に留められてもいないのではないかとさえ不安になって来る。
折に触れ一本木の持つ存在感が特別なもののように感じられるだけに、そういう相手に歯牙にも掛けられていないことを思い知らされるのは、正直なところ少々堪えるものがあった。
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