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SSA後、高潔リーダー→孤高リーダー話です。
三分割していたものを一本の記事に纏めるに当たってほぼ全文大改変を行いましたので、多分一回記憶リセットして読み直して頂いたほうが無難かと思われます(一回オープンにしたものに対しそれもどうかと思いますし正直自分でも字書きの端くれ的に相当恥ずかしいレベルの改変してるんですが、何卒御理解頂けますと幸いです……)。


 

 

07-2.jpg


 

 


 振り返ってみれば、太陽はほんの一日眠っていただけに過ぎなかった。
 夜明けの光はいつもと同じ東の空から、いつもの時刻よりも僅かに遅れて訪れた。真冬の闇が明けた後の陽は殊の外目映く、その再来を待ち望んでいた人々の顔を一層輝かせる。目的を成し得たその喜びの輪には加わらず、西園寺隼人は桜の丘からその風景を眺めていた。やがて誰かの拍手が微かに聞こえ、小さなそれが次第に周りを巻き込んで大喝采に変わると、背後で四人の幹部達が漸く少しだけ緊張を解し、互いに笑い合った気配が伝わって来た。
 表情を変えなかったのは、西園寺の傍らの一本木龍太だけだった。彼はいつものように後ろ手に白手袋の甲を重ね、背筋を正し、どんな大事も無かったかのような平常心で、いつもと何一つ変わりなく佇んでいる。
ただ、他の皆と同じように太陽を、或いは喜ぶ彼らの姿を眺めていた筈だというのだけは間違いなかった。その一本木が、不意に姿勢を崩して緩やかに一歩を踏み出した。団服の裾を翻し、氷が溶けた丘の緑を静かに踏み拉いて、人々の待つ方とは逆の裾へ降りていく。西園寺は呼び止めかけた声を飲み込み、動き始めた背中を暫くの間視線だけで追い掛けていたが、やがて小さく息をつくとその後を同じ歩調で追いかけた。先陣を務めていたリーダー二人が動いたのを機に、斉藤や杉田らの他の幹部達も散り散りに行動を開始する。しかし一本木は別段それに加わる訳でもない様子で、次第に喝采から離れて行った。二つの街を見下ろす丘の頂、そこに佇む桜の大樹と擦れ違った時、枝の影が緩やかに歩む背中へ落ちかかる。
 西園寺が後を追っているのを知ってか知らずか、一本木はそのまま樹から少し離れたところで足を止め、叢に腰を下ろした。ちょうど人々の集まった方の正反対の方向で、幹部達が居たところからも死角になっており、その場所から喝采は遠かった。
 片足だけを草の上に伸ばし、立てた膝の上で腕を休める。並んで座るのも面映い気がして、西園寺は少し高い位置に立ったまま腕を組む。見下ろす居住まいはやはり普段と何も違わない落ち着きで、西園寺は僅かに眉を顰めた。他者の応援ということが無私の心によって成されるものであることは双方の属する組織共通の誇りだが、それでもそれなりの大業を成し遂げた筈なのに、毅然と沈黙を保つ横顔はあまりにも変わらなかった。そうしているとほんの数刻前に寸分違わず息を合わせ願いを重ねたことすらも錯覚のようで、今となってはもう、一体何をどうしたら彼の心が動き、何ならば届くのかも判らない。それでも、伝えるべきだけは伝えたかった。
「一本木」
 痺れを切らし、西園寺が名前を呼んだ時だった。一本木が顔を上げ、何か言いかけるように口を開く。しかしそれが確かな言葉になる前に、彼は額を押さえて小さな呻きを漏らした。痛みに耐えるように顔を顰めると、押さえた白手袋の上に赤色がはらりと落ちかかり、瞬間、西園寺は眼の端に映った色の鮮やかさに思わず声を荒げた。
「おい!」
「大丈夫だ」
 飛んだ声で我に返ったように、一本木は眼を開け、緩やかに首を振った。
「ただ、これが」
 短く答え、掌を開く。団のシンボルカラーである赤い鉢巻が、結び目を残してこめかみの辺りで千切れていた。弱った場所から破れた布地の真紅に、安堵を悟られないよう西園寺は腕を組み直す。
「演舞の途中で切れなかったのは、有難かったな。様にならん」
「そうだな」
 呆れた風に返した筈の言葉をあっさりと肯定され、西園寺は閉口した。今度こそ会話を繋げるための手段が途切れた気がして、半ば八つ当たり気味に耳元の髪をかき上げる。長い金髪が風に翻り、照り返しで橙を帯びた光沢が夜明けの日に映えた。
 これまでずっと、一本木を見かける度にその姿を捕まえては挑みかかっていた。しかしどんな言葉を投げかけても彼の表情はいつも殆ど変わらず、凛然とした佇まいでいつも西園寺を見返していただけだった。だから思い起こせばそもそも、投げ掛け受け止め、投げ返す何かが彼との距離の間にあったのかどうかなど怪しいものだった。だとしたら、今更まるで友人のように言葉を交わし繋げることなどに意味は無く、出来るはずも無いことなのかも知れなかった。
 風に煽られた髪を撫で付ける振りで、西園寺は自分の鉢巻の結び目に手を当てた。襷と揃いの純白のそれには、あれだけの修羅場を潜り抜けた後でも汚れ一つ無い。布の感触から指を離し、西園寺は険しくなる思いを押し隠すように唇を噛んだ。
 元来そういう存在であるから、西園寺にしても一本木にしても、当事に関わるステージに下りることは殆ど無い。そんな不文律を覆した状況の中、今こんな風にして立っていられるのは一体何の奇跡なのかと、今更のように身に染みた。
 太陽が力を取り戻したと言っても、風はまだ少し冷たく肌を刺す。それまで身動ぎもせず西園寺に背を向けていた黒い団服が、僅かに傾いた。一本木は草の上に片手をつき、背を支える姿勢で西園寺を振り仰いでいた。千切れた鉢巻は、地についた手に握られていた。
「座らないのか」
「……いや。いい」
 促されたのが意外で思わず否定すると、そうか、と小さく息を吐いた仕草の後、一本木は団服の襟を留めていた金具を外した。制服の前を留めていた釦も幾つか外し、開いた胸元から白いシャツが覗く。怪訝な思いで、西園寺は襟元を寛げた一本木を見た。真紅の襷も揃いの腕章もそのままだったが、この男が人前で、それも仲間以外の者の前で、僅かでもその装いを解くことがあるのがとても不思議な気がしていた。
「西園寺」
「何だ」
「お前は強靭だな」
「阿呆か。貴様は」
 意味を考える前に反射で返す。状況としても、評価としても言葉の選び方としても的外れだ。そう断じたつもりだったが、一本木ははっきりと返して来た。
「根拠はある。間違った評価とは思わん」
 躊躇いの無さに、今度は西園寺も返す言葉に詰まった。墨色の双眸が、肩越しに西園寺を鋭く振り仰いでいた。振り返るその背からは黒い団服の裾が流れ、叢に影法師のように広がっている。丘の桜から流れた桜の花びらが裾の上に落ち、黒の弛みに溜まっていた。
「……判らん男だ」
 言葉を継ごうとした唇が、何故か酷く乾いていた。装いが多少緩んだところで、根本は少しも揺らいでいない。敬意と苛立ちが綯い交ぜになった思いを包み隠すように、西園寺は自分の白い腕章の上から団服の袖を強く掴む。
「大体だ。何故いきなり、そんなことを言い出した」
「今、漸く判ったからだ。確かに、お前がずっと言っていた通りだと」
「何の話だ」
 要領を得ない答えだった。掌を開けて、一本木は緋色の切れ端に目を落とす。それから至極当たり前の事実を告げるように、答えを継いだ。
「俺は、お前には勝てんのかも知れん」
 白い腕章を掴む掌に力が籠もった。答える西園寺の声が、自然と凄みを帯びる。
「突然、どうしたかと思ったが……それはまた随分、あっさりと認めてくれたものだな」
 堪えるように奥歯を噛み締める。それは過ぎる程に誠実で嘘など欠片も無く、ずっと聞きたかった筈の言葉だった。にも関わらず、まるで実感を伴っていなかった。勝った気も、振り向かせた気もしない。まして、あの隔たりを詰められた気もしなかった。立場は逆でも勝ち逃げされたような苦さを感じながら、西園寺は口を開いた。
「気に入らん。貴様のそういうところが、俺は、いつも」
 苛立ちを噛み締めるように言いかけ、そして、ふと思い至った。瞬間、熱が静かに引いていくような思いを感じた。確信に近い予感を抱きながら、西園寺は数歩で叢を駆け降り、一本木の傍に詰め寄った。
「待て。まさかと思うが、それが『根拠』か?」
 一本木は座り込んだまま、降りて来た西園寺を無言で見上げる。案の定、普段通りと思い込んでいた精悍な面差しの中に、いつもならば決して見ない色が微かに浮かんでいるのを見て取った。西園寺は一本木の掌中にあった緋色を奪い取り、半ば怒りを込めてその目の前に突き出した。
「……先に言え」
 意外だと思った感覚が正しかった。無言で見上げる居住まいは、まるで観念しているようにも見える。多少詰問の気勢を削がれながらも傍に屈み込むと、存外に無防備な表情に金色の髪の陰が落ちかかった。
 身代わりの分、西園寺よりもほんの少しだけ消耗していたから、限界が訪れるのもほんの少しだけ早かった。人目から、他の幹部や後輩から離れてわざわざここまで足を運んだのは最後の矜持で、人前で膝をつくという無様を晒さないためだった。にも関わらず一人だけその領域に入ることが出来たのは、もう追い払う気力も無かったからなのか、或いは許されたということなのか。いっそそうであってくれればと詮無きことを願いながら、西園寺は呆れた声で囁いた。
「最早立っていられない程に、疲弊し切っていたのならな」
 問い質す声は低く落としたもので、二人の間でなければ聞こえない程だった。配慮はしても厳しいままの表情からは目を逸らさず、一本木は短く答えた。
「あの場を預かった以上、最後まで立っていてこそなのだろうが」
 己の不甲斐無さを恥じてのことか、険しい目で眉を寄せる。そんな顔をされるのがどうしてか気に障り、西園寺は思わず反駁した。
「あれだけの役目を果たすことが、生半なことであるものか。力を尽くせば、そうなったとて不思議は無い」
「お前に助けられてから、俺は必死だった」
 短い反論だった。西園寺は却って言葉を封じ込められる。
「ただ夢中で力を、声を揮っていた。だからあの時、お前と共に声を合わせ、お前が何を考えているのか少しは判った気がしたことも、もう、それをよく思い出せない」
 一本木は西園寺の後ろ、昇りかけの太陽を仰いだ。座ったまま背を逸らすと、制服の裾に溜まっていた花びらが草の上に落ちた。
「怖いと感じたようにも、不思議と安心したようにも、声を合わせること自体を心地良く感じたようにも思うのにだ。今はそれが、とても惜しい気がする」
 目を伏せ、言葉を切った。一本木は後頭部に手を宛てて、黒髪の結び目をほどいた。癖のついた髪の先が肩に落ち、億劫そうにそれを手櫛で梳く。装いはこれで殆ど解かれ、一本木は西園寺の手に握られたままの赤い布に目を落とした。
「だが、あの時の代償がそれ一つで済んだのなら、運が良かったということだろう。俺が入団した時から、ずっと使っていたものだったが」
「高くついたな」
「かも知れん。悪いが、少し預かっていて欲しい。……西園寺」
「何だ」
「気付かれると思わなかった。本当に、人を良く見ている。その慧眼も、お前という男の持つ幹部の資質なんだろう。そういうものが少し、羨ましくはある」
「……。黙って、休め」
「ああ」
  染むように頷く声が少しだけ、笑っているような気がした。
「そうしよう」
  同意の後、瞬きの途中のように瞼が閉じた。片膝を立てたまま、物思いに耽る姿勢で眠る。ふと駆られた思いに、西園寺が口元に手を翳すと、微かに規則的な呼気が触れた。目を閉じて眠る顔からは普段の厳しさが消えて、思いの外静かな印象を齎している。眉間に皺の寄っていない、自然な姿勢を初めて見た。
 屈み込むと、金色の髪の先が俯く頬を掠る。西園寺は膝を払って立ち上がり、軽く息を吐いた。
「貴様が珍しく勝手を言うせいだ。結局、言いそびれてしまっただろう」
 人の輪から離れた姿を追って来た、本来の理由を思い出す。西園寺は背筋を伸ばし、握った拳を胸に置いた。唇を引き結び、一本木を見下ろすその顔には、鬼龍院の許で組織を率いる幹部の長の表情が宿っていた。
「改めてだ、一本木龍太。うちの者を、杉田と森山を護ってくれたことを……感謝する」
 すぐ傍で囁いても、大役を果たし休息に入った彼は眼を覚まさない。また誰かのために高らかに声を上げる次の時に備えて眠る姿を見下ろす、西園寺の拳から長い緋色が風に翻った。
 奪ったままだった赤い鉢巻は、雪融けの露に湿って冷たかった。朽ちて千切れた布を握り締めると、手袋に露が染みるのを感じる。強く力を籠め、西園寺は白い手袋の甲へ唇を寄せた。明け方の光の穂先が視界にちらつき、眩しさに眼を閉じながら吐いた息は、まだ少しだけ冬の白さを残していた。
 

 

 

 

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そもそも一番最後の礼のシーンを書きたくて考えた話でした。鉢巻の件も孤高リーダーの消耗の件も当然のように捏造ですが、その位の代償があってもいいんじゃないかと思ってのことであります。

そう大掛かりなネタではなかった筈だし7月中には終わらせたかったんですけども、結構行き詰まったりして時間掛かりました……。そのせいもあり、最後を書くために全体を読み返している内に、どうしても前半二つの記述が幾つか気になり始めてしまいまして(ここ動きの視点が一本木じゃおかしいだろとかそういうレベルで)、迷った末に全文見直しを行った次第であります。今まで読んで下さった方、待っていて下さった方にはかなり申し訳ないんですが。でも今まで一本木で書いていたシーンを西園寺に差し替えて居たりとか字書き的にもかなり恥くさい修正で、お陰でどうにか読めるものには仕上がっ(てるといいな!)たかと思うので、お目溢し頂けますと嬉しいです……。



……にしても見直せば見直すほど一西に見えるのは何故なんだろう(本質的にはあんま変わらないからじゃないかと思う)。

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