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熱血リズム魂モエblog。色々だだもれに稼動中。
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web拍手の御来訪御礼SS第一弾でした。サムライブルー後の菊地とEBAのルーシーの話です。
(組み合わせ的にはでっち上げ感満載ですが個人的には結構気に入っていなくもなく)






09-1.jpg

「ううっ、寒い……」
 手袋の両手をかき合わせて、出来た掌の空洞に出来るだけ温かな息を吹きかける。それでもなお襲ってくる寒さに耐え切れずに、菊地は一度大きなくしゃみをした。団の青い制服は仕立も生地も高級なものだったが、激しい動作に耐えられるようかっちりとした作りになっており、密閉性にも優れている。つまり夏は暑く冬は寒い、ということだった。演舞の済んだ直後はうっすらと額に汗が滲むほどに火照っていたが、ある程度時間が経過すれば当然のようにそれは体温を逃がす働きに逆転し、却って身体を冷やした。
 しかし、既に半額近くまで値下げしたクリスマスケーキを売り切るまでは、まだ帰れない。森山と杉田が手伝ってくれているのが救いではあったが、それでもマッチ売りの少女のような気分を味わいながら、菊地は改めてサンタクロースの赤帽子を被り直した。
 クリスマスイヴの繁華街は、何処もかしこも眩かった。ケーキ売り場の傍らに聳え立つ巨大なクリスマスツリーも、豪華な電飾や輝くオブジェに数え切れないほど彩られ、微かに雪のちらつき始めた闇を幻想的に照らし出している。広場や交差点を行き交う顔は誰も一様に幸せそうで、菊地は途方に暮れたようだった気持ちが漸く少し楽になるのを感じた。辛いことがあったり逆境に陥ったとしても、日々を頑張って生きて今日という一年の特別な日を迎え、それであんな表情が出来るのならそれは何にも換え難いことだった。彼らが挫けそうになった時、少しでも自分達の声が届いていたのなら、菊地にとっても喜ぶべきことなのだ。
 菊地はメガホンを手に取った。毎日の鍛錬で培った発声の応用で、思い切り息を吸い込む。横断歩道の信号待ちに向けて呼び込みの声を上げようとして、菊地はふとそのままの姿勢で息を止めた。足を止めた人込みの中、コート姿の社会人達に混ざって、彼らの腰の辺りの高さでふわふわと金色の何かが揺れて見え隠れしていた。菊地は発声のタイミングを逃し、ゆるゆると息を吐きながらその動きを目で追う。
「どうした?」
 後輩の様子に気付き、森山が声を掛ける。
「いえ、あの。あれって」
 菊地の要領を得ない答えに、杉田が視線を眇める。そうこうしている内に、金色は懸命に雑踏を掻き分けて広けた場所へとまろび出た。青い大きな瞳が戸惑ったようにきょろきょろと辺りを窺い、それから広場の中央の樅の木に気付いて、ぽかんと口を開けた。肩より少し長い程度の金髪の少女が、両手一杯に二匹のクマのぬいぐるみを抱きかかえたまま、クリスマスツリーに目を奪われていた。
「杉田さん、森山さん。すみません、僕ちょっとだけ出てきます」
「え? おい!」
 短く言い残して、菊地はそのまま横断歩道まで駆け出した。道行く人は異国の少女を珍しそうに、或いは心配そうに一瞥するだけか、でなければ気にも留めず歩いていく。菊地も、それは別段薄情とは思わない。今夜は皆、誰かのための約束を守ればそれで十分なのだ。
 弾む息を整えながら、広場の少女の近くで菊地は足を止める。微かな粉雪の中で息が白く跳ねている。菊地に気付いて、青い目の少女が振り返った。あどけない顔立ちだったが、まとう雰囲気は不思議と落ち着き、大人びている。透明な青に真っ直ぐ見上げられ、菊地は却ってしどろもどろになって額の鉢巻に手を当てた。
「え、えっと。日本語わからないよね。こういう時、何て言うんだっけ……」
 少女はきょとんとしている。手助けするつもりで来たのに、上からいつまでも見下ろしているのも良くないと、菊地はメガホンを地面に置いて少女の傍に膝をつく。青い目線が同じ高さになった。
「あの。どうかしたの?」
 たどたどしいながらも、何とか定型句を思い出しながら尋ねる。少女は小首を傾げた。やはり通じなかったかと菊地が落胆しそうになった時、鈴を振るような声がにっこりと答えた。
「ありがとう。ほんとは私、ちょっと困ってたの。ママがはぐれちゃって」
 辛うじて聞き取れた単語から、菊地は内容を推測する。が、ヒアリングに自信が持てなかった。迷子らしいということはわかったが、それにしては妙に落ち着いている気がしたからだった。菊地の混乱を知ってか知らずか、少女は悪戯っぽい口調で続ける。
「日本にはパパと一回来ただけだって言うから、きっと懐かしくってあちこち見てる間に迷っちゃったのね。うん、でも、さすがに私もこれからどうしようかと思ってたから、声かけてくれて助かっちゃった」
 はきはきとした発音の英語だったが、菊地には半分も聞き取れなかった。こんな時西園寺だったらきっと流暢に会話を進めていたに違いないと、反射的に浮かんだ発想を慌てて振り払う。余計に情けない気持ちになりながら、菊地は気を落ち着けようと額に手を当てる。一生懸命構文を考えながら、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「え、ええと……お母さんが迷子で、君を探してるの? いや、ちょっと違う気がする。そうじゃなくて……」
 菊地は自分の胸に手を当てた。一言一言を確かめるように区切りながら、少女の目を真っ直ぐに見て言葉を伝える。
「僕が、君のお母さんを探してあげる。一緒に」
 少女を助けたいという気持ちは精一杯込めたつもりだったが、片言の英語を繋げて作った文に自信など持てなかった。案の定驚いたように丸くなった瞳に、何かとんでもない誤用でもしたのかと不安が濃くなる。我知らず真剣な顔で菊地は少女を見ていたが、見開かれていた瞳は柔らかく瞬き、それから花が咲くような笑顔を菊地に向けた。
「びっくりした。今の、何だかJ……じゃなくてスピンみたい。あなたの声にも、力があるのね。スピンとあなたじゃ、全然似てないのに」
「え? ご、ごめんもう一度。判らなかった、ゆっくり言って」
 固有名詞を追い掛け切れず、聞き返した。少女は首を少し傾げ、菊地の目を覗き込んだ。
「そんないい声なんだから、きっとあなたも歌うのね? それならね……」
 言いかけ、少女は急にはっとした表情を浮かべた。振り返ると、横断歩道の向こう、雑踏の中に金髪の女性の姿が菊地にも見えた。少女と似た面差しの女性は、余程心配していたのか、憔悴しきった顔で手を振っている。広場に流れるクリスマスソングにかき消されよくは聞こえなかったが、叫んでいるのは少女の名前だろう。菊地はぎょっとして女性の背後を見た。本当は何処かの令嬢だったのか、女性の傍には黒服とサングラスのエージェントが何人か控えている。
「ママ! 探したのよ!」
 少女は車道の対岸へと明るく澄んだ声を投げ、大きく手を振り返した。菊地を振り返り、少女はぱっと表情を輝かせた。
「手伝ってくれてありがとう。私、もう行くわね」
「あっ。ちょっと待って」
 車の流れが緩やかになるのを見て取って、菊地は被っていた帽子に手を掛けた。その前にふと気付いたように、少女の髪に絡んだ雪のかけらを優しく払ってから、真紅の三角帽子を金色の髪にふわりと載せた。柔らかな光の色の髪に、艶のあるベロアの赤がよく映えていた。
「えっと……メリークリスマス。今度は、迷子にならないようにね」
 日本語でそう告げ、笑う。少女はぬいぐるみをぎゅっと抱き締め、どうしてかほんの一瞬俯いた。
「……ありがとう」
 そうして天使のような笑顔を向けて、少女は軽やかに身を翻して走り出した。
 歩道の信号が青に変わる。一斉に動き出した人波に向かって少女は駆けて行き、それきり見えなくなった。肩に薄く積もった雪を払って、菊地は立ち上がって伸びをした。転がったままのメガホンを拾い上げ、まだ売り場に山積みのままのケーキの箱を振り返る。戻ったら杉田と森山に問い質されるのは免れないだろう。思わず、箱の数とクリスマスイヴの残り時間を秤にかけて考える。半額を超えたら、次は何割引にすればいいものか。
 でも今日はもうそれでもいいかと、菊地はメガホンを両手で包むと、雑踏に向けて思い切り息を吸い込んだ。

 


 

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EBA未プレイの方にはさっぱりワケ判らない感じですみません。
ルーシー好きなんです。居た堪れないんですが、応援失敗した時の10年後もすいませんモエでした。EBAでカップリング萌えがあるとしたらJと10年後ルーシー(応援成功で)でもいい位です。きれいに育って小さい頃の恩人を追いかけてくるといい……!(応援団もEBAもサザエさんワールドの住人ぽいからなー……)

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