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孤高新人と孤高リーダーの話のまとめです。
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空を仰いだ田中の目に、再びひとひらの淡紅色が映った。この季節には存在しない筈のその色は、真夏の緑を春の花の色彩に染め上げていた。三人の少年達は息の合った連携と子供らしい身軽さで枝から枝を器用に渡り、袋一杯に詰めていた紙の花びらで、大樹に生い茂る葉を瞬く間に埋め尽くしている。色紙で作った花は同じ色で揃えるには数が足りなかったらしく、ピンクの中にも白や赤や紫に近いもの、様々な質感や色合いの紙が混ざり合っていた。それが却って全体に不思議な風合いを齎し、作り物に過ぎない筈の花は夏の強い光に透かされ、本物さながらに淡い輝きを帯びていた。
すっかり春の姿に生まれ変わった枝から飛び降り、少年達が互いに頷き合う。その内の一人がぱっと身を翻し、丘を駆け下りて行った。不安そうにおどおどとしていたその顔には最早、不安や戸惑いはかけらも残っていなかった。その背中を誇らしげに見送って、残りの子供達は花びらを詰めた籠を持って再び幹によじ登る。微かな緊張と期待に満ちた表情は朗らかで、田中にも確かな根拠などは何もなかったが、何故だかもう大丈夫だと確信した。穏やかな気持ちでふっと息をつくと、不意に名前を呼ばれた。
「田中」
「っ! はい!!」
肩越しとは言え滅多に聞かない呼び声に心臓が跳ねる。胸が反るほど背筋を伸ばして、田中は声を張り上げた。眼前の情景にすっかり気を取られていたが、いつの間にか演舞の音は止んでいる。気を逸らしたことで叱責を受けるかと覚悟したが、一本木はそれきり何も言わなかった。後輩に背中を向けたまま、肩越しに無言の視線だけを投げかけている。呼ばれた理由に見当が付かないことでの不安も手伝い、続く台詞を待つ間の緊張が尚更痛かった。
「一本木さん。……あの。自分に、何か」
重圧に耐えかね、田中は怖ず怖ずと一本木を促した。それでもほんの一瞬何かを逡巡しているように見えた一本木は、やがて鷹揚に口を開いた。
「俺は」
低く、耳に深く残る声だった。応援から離れた彼のそれはこんな声だっただろうかと思いながら、田中は続く言葉を待った。
「人にものを教えるのが苦手らしい」
「……は?」
「お前が、初めてうちに来た時のことだ」
要領を得ず、思わず聞き返してしまう。一本木の言葉は自分のことを田中に向けて語りかけていながらも、まるで他人事のような口振りだった。田中の困惑を余所に、一本木は一層鹿爪らしい表情を作る。
「鈴木にそう言われた。それに」
そう答える口許はただの無表情ではなく、何処か憮然としているような気がする。些か唐突な話だった。田中が意味を捉えあぐねていると、振り返った深い墨色の眼差しが田中の顔をじっと見詰める。
「田中はうちの新戦力だから、俺のような癖のある呼吸の型を覚えられては困る、とも」
「え……」
それを聞いて、田中は二、三度瞬きした。考えを纏めようと眼鏡のフレームに指を当てると、ひとつの想像がふと脳裏を過ぎる。元々頭の回転は早い方なのですぐに事の流れを理解し、そして結論に思い当たった。
漸く得心が行った。間違いなくそれは鈴木の軽口であったのだろうが、彼はそれを真に受けたのだ。癖は確かにあるかも知れないが、覚えて困ることなどあるはずも無い。そんなのは以ての外であるということは、きっと当の鈴木が一番よく判っている。
「でも、一本木さん。それなら、さっきのは」
ならば、その田中の目の前でわざわざ披露して見せたのはどういうことだったのか。一本木は団服の襟に手袋の指を宛い、徐に視線を眇めた。赤い鉢巻の先がその背中で揺れ、何ということもないように一本木は答えた。
「今のお前なら、ああすれば俺の型から必要なところだけ勝手に覚えただろう。お前は頭のいい人間だから」
その一瞬で頬が熱を帯びたのが判った。田中は片手の掌を頬に宛がって、滲んだ汗を拭き取る振りで誤魔化しながら、鈴木の言うように彼が人に何かを教えるのが不得手というのは案外的外れでもないのだろうと思う。田中は学帽を外して胸に当て、一本木に一礼した。頭を上げると、いつもと同じ粛然とした眼差しがほんの少しだけ驚いたような色を湛えていた。被り直した帽子を整え笑い返すと、緑の丘の下から少年と少女の声が駆け登ってくるのが聞こえた。田中が声の在処を探すと、一本木はその先の空を仰ぐように顔を上げた。紙吹雪が制服の肩を掠めて流れ、追いかけるように鉢巻が真紅の軌跡を描く。熱気を払う風に、彼は僅かながら目を細めた。
憑物が落ちたような思いで、田中は肩越しのその横顔を呆然と眺める。無造作に結った黒髪を風が撫でた時、凛乎たる筈のその佇まいが涼しげに表情を緩めたように見えたのは、多分気のせいではなかった。
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長い上に無駄にリリカルですみません……。
わたくし孤高リーダーには、内面熱くてやるときゃやるけど普段は寧ろ無口で応援以外には能動的でなく感情表現に乏しい人ではなかろうかという印象があったりします。(だってでなきゃ雨の中猫に傘差し掛ける西園寺見た時も何かもっとリアクションくれてもいいと思ったんだ……他の人達はほのぼのしてたり動じないのが寧ろ個性だったりするのにー)
蛇足ですが、グラマラススカイのエピソードは色紙切るより飾る方が大変じゃないのかと思ったのが実はそもそもの発端です。あとついでに演舞に癖があるというのは果敢のマーカー配置が全難易度の中で裏打ちを引き受けているパートだからと聞いたことがあったからです(言わないと判らないってのもどうかな!)
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