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世間の皆様がすんごい楽しそうだったのでEBA来日祭にこっそり便乗。
Cruising担当エージェントと孤高リーダー話です。
朝日町の港に足を踏み入れた時、一本木はふと、誰かに肩を軽く叩かれたような感触を覚えた。団服の上からその場所を押さえ、傷でも見るかのように視線を傾ける。心当たりは無いが、もしかしたら練習時に何処か少し痛めでもしたのかも知れない。しかしそれ以上同じ場所が疼いたり痛んだりすることは無く、気のせいと断じて手を離すと、一本木はクルーザーが何艘か停まる埠頭へと目を向けた。
初夏にしては穏やかな陽射しが、白く泡立つ波間に緩やかに反射していた。百目鬼から聞いていた特徴の男は、携帯電話を耳と掌の間に挟みこみ、英語で何事かを話していた。傍らに置いた銀色のスーツケースに浅く腰掛けて、ゆったりと身体の重さを預けている。深い黒のスーツを慣れた様子で着こなし、話の途中で何度かリーゼントのダークブロンドを癖のようにかき上げる佇まいは、サングラスで目元を隠しているものの、整った顔立ちをしているのは容易に見て取れた。ただ、どういう訳かその表情は難しげだった。
「……ああ、頼む。なら、この辺でも少し探してみる。もしスピンからそっちに連絡が行ったら、俺のところに……いや、駄目だ。全然繋がらない。地下鉄で移動なんて久しぶりだから迷ってんじゃないのか、あいつ」
男の声質のせいか、少し早い口調でも言葉は十分聞き取りやすかった。一歩近付こうとすると、男は一本木の気配にすぐに気付き、さりげない様子で話を早々に切り上げる。携帯電話を片手でぱちんと折り畳み、スーツのポケットに仕舞い込むと片手を上げて呼び止めて来た。
「失礼。ちょっと、聞きたいことがあるんだが……ユウナミソウってホテルを知らないか。この辺にあるって話なんだが」
夕日町の老舗旅館の名前だった。一本木は頷き、埠頭の出口へと視線を投げ掛ける。
「道は判り易いが、ここから行くには割と遠い」
「本当かよ。こっちだって聞いたんだが……間違えてたのか。参ったな」
指先で顎を撫でさすりながら、男が渋面を作る。
「この辺りは朝日町になるから、知らない者もいるかも知れないな」
「成程な。そりゃあ、聞いても判らない訳だ」
「もう向かってもいいなら、車を呼ぶが」
「……何だって?」
一本木の言葉に、男の指の動きが止まった。自分より少し背の高い、金髪の男の目の辺りを見据えながら、一本木は答えた。
「団長から聞いている。連絡を受けて迎えに来た」
「そりゃあ……また」
男は小さく口笛を吹いた。多少は緊張が緩んだのか、その口元は少し笑っている。
「一人だという話では無かったが」
「ああ、ちょっとしたアクシデントでな。何にしても、助かった。それで、ここがアサヒチョウってことは、もしかしてあんたが『サイオンジ』か?」
「……いや」
急に押し黙った一本木へ、男は却ってきょとんとした様子になりながら続けた。
「あれ、違うのか。聞いてた感じだと、てっきり」
「……?」
言いかけ、不意に男は口元に手を当てると、何かを考え込むように黙った。窺うように見下ろす気配に、一本木は唇を引き結んで、真っ直ぐに応える。黒いレンズの裏から投げ掛けられる視線には、どういう訳か、何かを試されているような気分だった。
「オーケイ。すまない、間違えて悪かったな。名前を聞いていいか」
男は右手を差し出しながら聞いてきた。一本木だ、とだけ短く名乗り、手を握り返す。
「宜しく。俺は」
告げられた名前に、一本木は微かに目を細めた。
「……J?」
「ちょっとした訳有りでね。悪いが、それで通してくれ」
「そうか」
一本木が頷く。朴直な態度に、寧ろJの方が呆気に取られたようだった。が、すぐにその口元がにっこりと笑い、握手の手を離す。
「ところで、もう出発出来るだろうか」
「ああ、いや、すまん。連れが一人まだ迷っててな。そいつを待たなきゃならん。先に戻って、あんたのボスに報告していてくれないか」
「しかし」
「事故に遭った、とかじゃないから大丈夫だ。ただ、連絡がいつ取れるかまだ判らない。それに、来て早々迷惑も掛けられんしな」
口調はあまり心配していないような朗らかさだったが、迷惑を掛けたくないというのは本音であったのか譲るつもりはないようだった。勘がいいのか、一本木にもその意図は伝わったようで、ややあって渋々といった様子で承諾した。
「もしも車を呼ぶなら、夕日町の夕波荘と言えば大抵は判る筈だ」
「サンキュー。色々手間掛けさせたな。リュータ」
そう呼ぶと、虚を衝かれたような表情が浮かんだ。日本人らしい深い黒の双眸が、ほんの微かに驚きで揺らいだ。途端、峻険さを僅かに帯びた眼差しに、Jは子供のように無邪気な笑みで返す。一本木は少しの間、Jの目の辺りを見据えていたが、ややあって諦めたように軽く息をつくと頷いた。警戒の解けた気配に、Jはサングラス越しに微笑んだ。
結局、客人の意向に従い、一本木は独りで埠頭を後にすることになった。緊急の連絡先だけ伝え、先に向かおうとして、ふと思い出したように足を止めた。
「そう言えば」
振り返って、港を一度見渡す。穏やかな波の飛沫が、停まるクルーザーの船腹に当たっては跳ね返っている。平日のせいか人影はあまり無く、鴎の鳴き声だけが時々遠く聞こえる。
「ここで待つなら、さっき言っていた『西園寺』に会えるかも知れない」
「本当か。そりゃ、楽しみだな。どんな奴なんだ?」
Jの問いに、暫く考え込んでから、一本木は答えた。
「変わった男だ」
「……そうか」
言葉を濁すと、ほんの少し憮然としたような空気が伝わって来た。勘のいい奴だ、と思いながらも恍けて先に行かせ、Jは誰も居なくなった埠頭で再びスーツケースに腰を下ろす。深く潮風を吸い込むと、故郷の海とは違う潮の匂いがした。サングラスを外し、Jは眩しげに目を細めながら昼の空を見上げる。
「良く響きそうな、いい声してたな。気に入った」
滞在はそう長くは無いが、面白くなる予感に満ちている。Jは満足そうに独り言つと、不意にポケットで震え始めた携帯電話へと手を伸ばした。
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Q.彼らは何語で会話してるんですか
A.お互い相手の言ってることは理解してますが受け答えは各々母国語です
そんな感じでひとつ。(流暢に日本語話すJも英語で返す一本木もそれなりに想像つかん)
でここまで書いといてなんですが、EBAと応援団は寧ろ組織としてあまり関係が無い方が面白いよーな気はします。国家警察と自警団みたいな感じの距離感で。あとそろそろ短くてもちったあまともな更新をしようという意図を含みつつ組織のリーダー同士(あ、いや待てJはひょっとして違うかも)初邂逅でちょっとした駆け引きなんか書きたいなあと思いつつ突き詰めると結局リュータ呼びが書きたかっただけですすみません。J一とかいう単語が頭を過ぎらないでもなかったんですが今のとこ他意はありません。というかJには帰る直前空港で見送りの一本木と西園寺とまとめてハグして二人を慌てさせるくらいの博愛っぷりを発揮して頂きたいです(妙に具体的な)。
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