「エヴリデイシング」

孤高新人→孤高リーダーなSSというかそれより短いSSS？です。新人が若干甘やかされ気味です。ちょっとだけ鼓笛の後日談ぽいですが読んでなくとも全く問題ありません。

あと携帯からアップ実験もかねて(旅行先から更新する阿呆ですすみません)。

　団服の肩に衣擦れの音が滑った。鮮紅色の襷が脇の下から肩へと滑らかな弧を描き、肩口から腕の付け根へと引き下ろされる。一本木龍太は同じ動作を右でも繰り返し、ぴんと張った襷の裏表を翻すと、締めた脇へと背中から通した。一連の流れるような手順の最後に、手袋を填めたままの指先で造作もなく結び目を作る。
　田中は左の肩にだけ紐を落とした状態で、手を止めていた。欠片も淀みも迷いも無い粛然とした所作に、自分の手元が疎かになるのも忘れて見入る。それこそ田中がここに来る前から幾度と無く繰り返されて来たのだろうから当然と言えば当然なのだが、その練達した身の熟しは流石に堂に入っている。
　結び目を整えた一本木が視線に気付いた。田中は慌てて続けようとしたが、再開の手順に一瞬手間取る。焦りを見せては行けないと思った瞬間、肩口で緩んでいた襷を、隙を突くように正面から取られる。ぐっと力を篭めて引っ張られ、田中は表情を歪めた。
「っ、すみませ……！」
「最初が長過ぎる」
「え」
「初めからこうしていたのか？」
「は、はい！　申し訳ありません！」
　反動で声が大きく上擦る。一本木が、少し怪訝そうに眉を寄せる。しかしそのまま、田中の反応など意に介さないように中途半端な状態の襷をあっさりと解いた。田中はどうしてか叱られている子供のような気持ちでされるままになる。襟の長い団服の喉が、いつもよりもきつく感じた。
「袖丈に取って、こう……」
　田中の指に襷の端を握らせ、腕にぴったりと宛って長さを測る。大体の目安をつけて襷の面を返そうとした時、一本木の手が止まった。口数は多い方ではない彼の、それでも不自然な沈黙を田中も訝しく思う。
「一本木さん？」
　恐る恐る尋ねると、一本木の眉間に皺が寄っていた。今度こそ自分は何か不手際をしでかしてしまったのかと一瞬ひやりとしたが、一本木は田中の手から襷を取ると、腕を伸ばさせ、胸の前から背中へと自らの手で引っ掛けてそのまま田中の準備を続けた。
　息を飲んだのも悟られまいと、田中は顎を引いた。格下の自分が幹部の手を煩わせていることへの恐れ多さもあったが、それとは別種の緊張感が遙かにそれを凌いでいた。一本木の手が慣れた動作で肩の下や背の裏をくぐる度、まだ不慣れとはいえいつも自分がしている筈の動作が全く別のものに思えた。今の今まで忘れてはいたが、そういえばこの装いには神事に携わるための意味もあった筈だと漠然と思い出した。
　先刻聞いた衣擦れと同じ音が、今度は耳元で聞こえた。脇が急に固く締まる感覚に田中は我に返った。茫としている間に、一本木は準備を済ませてしまっていた。傍にいた気配が離れ、手を伸ばして結び目の固さを確かめる。
「これでいい」
「お……押忍！　有難うございます！」
　腹の底からの声で応ずる。不意に緊張が解け、田中はゆるゆると息を吐き、酸欠気味の頭で状況を整理する。口頭で教えるのではなく自らの手で締めたのは、恐らくネクタイを結ぶ時等と同じように他人に言葉で教えるのが難しかったからなのだろう。
　いつものように礼を返そうと頭を下げ、ふと気付く。真紅の襷は、普段田中が自分が掛けるよりも些か強めに結ばれていた。しかし腕の動きは阻まれることはなく、寧ろ普段より自由に動かすことが出来ている。
　大きく息を吸い、顔を上げた。自然、表情が引き締まる。田中は無意識に胸に手を当てていた。いつもと違う軛の力に、その奥の何処かまでもが、理由もなく澄んでゆく気がしていた。











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要はリーダーの襷装備が書きたかったという話です。
でも参考にした和服の襷掛けと応援団の皆さんのやり方が同一かは不明です。
(ていうか何処から見ても結び目、無く、ない、か……？)
2まで来て田中が一人で襷結べない訳ないだろ寧ろそこで手間取ったら普通怒られるだろというツッコミは自分で入れてますんでスルーの方向でお願いします(だから結べないんじゃなくて見惚れてたのと初めて教えるんでちょっと甘いだけで)(もっとダメだ)。